タカは今、呼び出されてどこかに行っている。


その隙に、あたしは自宅には近付くなと言われた言葉を無視し、家に戻った。


真夜中だし、当然だけど人の気配はなく、そこはひっそりと静まり返っている。


無心で向かったのは、春樹の部屋。


この5年、一度として足を踏み入れたことなんてなかった場所だ。


鼻につく煙草の染み付いた匂いと、雑然と散らかった雑誌や衣類は、普通の男の部屋といった感じ。


そこでふと、目に留まったのは、本棚に不自然に置かれているアルバムの存在だった。


まさかアイツがこんなものを後生大事に持っているタイプだなんて思わなかったけれど。


中身を見ようとそれを開き、また驚いた。



「…何、これ…」


家族写真は捨てられているか、両親が写っているものは切り取られていたり、ペンで黒く塗り潰されているものもあるけれど。


でも、あたしとふたりだけのそれは、綺麗に残されたままだった。


仲良く写る、幼い頃のあたし達。


こんな未来になるなんて予想すらしていなかった姉弟は、そこで手を繋ぎ、笑顔いっぱいに笑っていた。


涙が滲みながらも、次のページを開いた瞬間、挟まっていたものがばさばさと落ちた。


茶封筒がふたつ。


“姉貴に返す分”、“学費の分”と書かれていて、中には貯蓄を始めたばかりなのか、それぞれに3万円ずつが入れられていた。


そして家族旅行で行った花畑で写した、ふたり並んでの写真。



「……春樹の馬鹿っ…」


お金なんかいらないって言ったのに。


いや、それよりも、あの子がどれほどあたしの存在を大切に想っていてくれたか、そして生きていたいかが表れている。