春樹を轢き逃げた犯人が逮捕されたのだと警察から連絡をもらったのは、その日の夜のことだった。


ハタチの建設作業員で、盗んだ車を運転中に事故を起こし、怖くなって逃げたと供述しているらしいけれど。


その男が勤める会社というのは、堀内組の関係先で、男は借金があったというから、きっと罪を被らされただけで、真犯人ではないはずだ。


けど、でも、もうどうだって良い。


犯人が誰であろうと、春樹が目を覚まさない事実に変わりはないのだから。


そして“単なる轢き逃げ事故”は解決したと判断され、警察からは、現場に残されていた遺留品なども返却された。


春樹の財布にも、煙草にも、携帯にも、血のりがべったりとこびり付いている。



「あの、それで別件について少し、お話をお伺いしたいのですが。」


この前とは違う、けれど警察の人。


少年課だと名乗られた。



「春樹くんが普段からツルんでいる連中のこと、あなたご存じですか?」


甲斐くん達のことだろうか。



「実はそのうちの数人が、先日から行方不明になっているということで、捜索願いが出されているんです。」


「………」


「まぁ、元々悪さばかりしているやつらなので、大袈裟なことではないとは思うんですが、一応何かご存じないだろうかと思いましてね。」


あたしは警察の人に本当のことを話すべきなのだろうか。


でもそれをしたら、タカや道明さんにまで何かが及ぶのでは、と思うと、結局は堂々巡りだ。


本当なら、弟のことを一番に考えなければならないはずなのにね。



「いや、たまたま同時期に起こった話ということで、関係ないんですが、お聞きしたかっただけですので。」