帰るって、どうして?


ここにいないで、どこに行けと言うの?



「リサちゃん、わかんねぇのかよ。
もしもここに組の人間が来たら、ってこと考えろ。」


「だからって春樹の無事な姿も見ないで帰れるわけないよ!」


「安否なら医者や警察が連絡してくれる。」


そこまで言い、彼は息を吐いた。



「冷たい言い方だってわかってるけど、俺にはリサちゃんの方が心配なんだ。」


「じゃあ春樹がどうなっても良いってこと?!」


「そういうこと言ってんじゃねぇだろ!」


やめろよ、と、さすがにタカに制される。



「今は言い争ってる時じゃねぇ。」


彼の言葉に、道明さんは舌打ち混じりにそれ以上の言葉を飲み込んだ。


ひんやりと静まり返った廊下に、3人分のため息が溶ける。


最悪の事態を想定すればするほど、体が震え、冷静なことひとつ考えられない。



「リサ、何か飲み物買ってきてやるから。」


タカは気を使ったように言うが、それにさえ首を振った。


ただ、沈黙だけが続いていた時、突然に手術室のランプが消え、ドアが開く。


中から出てきた医師は疲弊した顔で、そこにいたあたし達に気付き、声を掛けてきた。



「ご家族の方にだけお話ししたいことがありますので、こちらにいらしていただけますか?」


緊張が走った。


タカと道明さんは顔を見合わせるが、あたしだけが医師の後に続く。


案内されたのは診察室のような一室だった。