タカはそれを聞き、小さく安堵したような顔を弛緩させた。



「いっつもごめんな、道明くん。」


「やめろよ、気持ち悪ぃなぁ。」


ふたりは拳同士を突き合わせ、



「まぁ、こっちは俺がどうにかしてやるから、お前は行ってこいよ。」


道明さんは彼を顎で追い払う仕草を取る。


タカは頷き、きびすを返した。


走り去る車をふたりで見つめていると、何とも言えない不安に駆られてしまう。


そんなあたしに気付いたらしい道明さんは、



「リサちゃん、寒ぃだろ?」


こっち、こっち、と彼によってマンションのエントランスへと促された。


エレベーターに乗って案内されたのは、道明さんの部屋。


ここに来るのは初めてだ。


中は整然としていて、大して家に帰っていないような様子が見て取れる。



「まぁ、当分はここにいたら良いから。」


それはつまり、タカの部屋でさえも危険ということなのだろうか。


とんでもないことになっているのだと、今更思った。



「あんま女の子が喜ぶようなもんねぇけど、好きにくつろいでくれよな。」


身振り手振りで言う道明さんは、何となく気を使ってくれているようにも見える。


けれど愛想笑いさえ返す気力がない。


すると彼はまた困ったようにため息を吐き出し、煙草を咥えた。



「つーかもう、面倒くせぇから言うけどさ、まさかリサちゃんの弟があの春樹だったなんてな。」