それから沈黙はどれくらいだっただろう、タカはまるで覚悟を決めたかのような瞳で顔を上げた。



「俺がどうにかするから、春樹は逃げろ。」


そして彼は自らの財布から抜き取った数万円を春樹に押し付け、



「少しの間、この街から離れてれば良い。」


「…雷帝、さん…」


「だって俺、リサが庇った弟を連れていくこと出来ねぇし、それにお前らのこと守ってやりてぇもん。」


タカは息を吐いた。



「俺の姉ちゃんでも、同じ状況ならきっと今のリサと同じことしてただろうし、そしたら道明くんはどうするだろう、って考えたらさ。」


「………」


「だから心配すんなよ。」


春樹はそれを聞き、ゆっくりと顔を上げてから、



「本当に、大丈夫なんすか?」


「あぁ。」


「姉貴のことは?」


「リサがこの件に絡んでるなんて誰も知らねぇし、もしも何かあったとしても、俺が手出しなんかさせねぇから。」


春樹は強く頷き、そして立ち上がった。


けれどあたしを見てから少し迷うような顔をしたが、でも意を決したように背を向ける。


部屋から去る足音が消え、零れた涙が頬を伝った。


タカはそんなあたしをそっと抱き締め、



「ごめんな。」


その言葉を繰り返した。



「お前に怪我させるつもりじゃなかったのに。」