押し殺すような、それでいて絞り出したような声。


一瞬で何かがあったのだと悟った。



『ヤバいんだよ、俺!
なぁ、頼むから助けてくれ!』


「ちょっ、春樹?!」


焦って問い掛けたが、代わりに早口で告げられたのは、ここからほど近い場所にあるパチンコ屋の名前。


そこの裏口付近にいるからと言われ、すぐに電話が切れてしまう。


考えるより先にもう一度リダイヤルを押したが、彼は電源を切ってしまったのか、アナウンスだけが流れている。


あの春樹が、しかもあたしに助けを求めるだなんて、ありえなかった。


だからこそ、とてつもない何かが起こっているに違いない。


きっといつもなら真っ先にタカに電話を掛けているのだろうけど、でもさすがに今はそんな状況ではなかったから。


あたしは急ぎ上着を手に、部屋を出た。








とにかく走った。


平日のこんな時間だ、普段は人通りどころか車だって少ないはずなのに。


なのに今日は、やたらとすれ違う巡回のパトカーと、ぞろ目ナンバーの堀内組の車。


この街で今、一体何が起こっているのだろう。


嫌な予感に支配されながらも、職質されたら最後だと思い、逆に人の多い大通りに出てから、指定されたパチンコ屋まで向かった。


春樹の携帯は何度か掛けているが、通じない。


回り道をした所為か、15分以上掛かりながらも、ネオンの消えたパチンコ屋の駐車場に到着した。


確か裏手にいるとか言っていたけれど。



「春樹ー!」