こんなことなら今まで何度もあったはずなのに、なのにどうして今日に限って、これほどまでに不安になってしまうのか。


あたしの呼び掛けに玄関先で足を止めたタカは、



「何でもねぇし、すぐ帰るって。」


そんな風に言われては、引き留めることも出来ない。



「お前は寝てろよ、大丈夫だから。」


「…わかった、じゃあ待ってる。」


言葉だけの納得だ。


タカはすぐに部屋を出てしまい、あたしは重いため息を吐き出した。


さすがにもう、眠気は吹き飛んでしまったが、ベッドに戻る気にもなれず、シロのいるソファーに座って煙草を咥えた。


タカは大丈夫だと言っていた。


あたしが焦ったって仕方がないし、とにかく落ち着く以外にない。







煙を吸い込み吐き出すことを繰り返しながら、時刻はもうすぐ午前3時を迎えようとしていた。


あれからまだ一時間も経っていないのかと思いながら、意味もなく携帯を手に取った瞬間、



“着信中:春樹”



けたたましい電子音と共にディスプレイに表示された名前に、びくりと肩が上がった。


とにかく驚いて、けれどタカや道明さんではなかったことに、あからさまに落胆している自分がいる。


それにしてもこんな時間に、非常識な弟だこと。



「何よ、うるさいわねぇ!」


苛立ち紛れに通話ボタンを押したが、電話口の向こうの様子に少し違和感を覚えた。


この感覚は、何だろう。



『……姉貴っ…』