気付けば10月も中旬を迎えていた。


乃愛がクラスにいないことも日常になりつつあったが、あたし達は何も変わったりなんかしていない。


そういえば先日、エコー写真を見せてもらった。


彼女のお腹の中の赤ちゃんはまだ豆粒よりずっとちっちゃくて、これがそのうち人間の形に育つだなんて、不思議なものだと思う。


梢は毎日のように直人と一緒だし、あたしもたまに、結香さんと遊んだりしている。


相変わらず学校では、テストや就職活動をとうるさく言われるけれど、でも卒業さえしてしまえば、フリーターでだって生きていけるのだから。


日々に対して不満はなかった。


だからこそ、ずっとこのままでいられたなら、と思ってしまう。








それは月がひどく綺麗な夜だった。


あたしとタカはすっかり冷え込んだベランダに出て、ビール片手に空を見上げる。



「すごーい、満月だ!」


最近は天気の悪い日が続いていたので、こんなにもはっきりと大きな月が映る夜空は、本当に久しぶりだった。


目を丸くしたあたしと、それを笑うタカ。



「何かこういうの見てると平和だなぁ、って思わない?」


問うと、彼は少し笑顔を曇らせて、



「平和なのは、きっと俺らだけだよ。」


「……え?」


「今日、この空の下のどこかで、堀内組がある海外の組織と取り引きしてんだからさ。」