実際目の当たりにしてしまえば、本当に辞めることが出来るのだろうかとひどく不安になってしまう。


あたしの前では決して見せない顔。


その、恐ろしいほどに歪んだ剣幕は、前と何も変わってなんていないから。


仕事だということは十分すぎるくらいにわかってる。


けど、でも、今は怖くて堪らない。


だから見ていられず、その場から逃げるようにきびすを返した。


とはいえ、もう走る気力さえもなく、壁を伝うようによろよろと歩いていた時、



「リサちゃん?」


呼び止められた声に振り向いた。


そこにいたのは何の偶然なのか、道明さん。



「何やってんだ?
って、顔色悪ぃけど大丈夫か?」


「あぁ、うん、平気。
ちょっと風邪引いちゃったかなぁ、なんて。」


必死で作る笑い顔が引き攣っていく。


さすがにさっきとは別の通りなので、タカの姿を見ないで済むことだけは幸いだけど。



「風邪なら尚更、ここには来ない方が良い。」


「……え?」


「つか、当分は街にいると危険だから。」


道明さんはいつもとはまるで違うほどに険しい顔で、声を潜める。



「この前の取り引きの話、わかってるだろ?」