妊娠が発覚したのは、今月中旬。


数日間は悩みに悩み抜いたが、やはり宿った命のことを思い、産むという決断を下したらしい。


そして不倫相手である“先生”とは別れたのだとか。



「元々あっちにも家庭があるし、それを壊すつもりなんてなかった。」


「………」


「先生に言ったらきっと責任を取るって言うんだろうけど、まだ小さな子を捨てるような人になってほしくなかったから。
奥さんや子供と別れてまであたしを選ぶだなんて、それって間違ってるでしょ?」


だから、何も言わずにさよならを告げたのだと、乃愛は言った。


つまりはそれは、ひとりで育てていくということか。


ずっと父親がいない中で寂しい想いをしていた乃愛が、自分と同じ道を辿る子を産むつもりだなんて、どうかしてる。



「お母さんとも話して納得してもらえたし、あたしはあたしなりのやり方で、この子を育てていきたいの。」


乃愛は、来週中には学校に転科の手続きに行くつもりらしい。


うちの学校は普通科や商業科の他に、通信科というものがある。


転科する場合は今ある単位を持ち越せるので、イチから勉強し直さなくても、ちゃんと毎回決まった提出物さえ出せば、あたし達より少し後だが卒業は可能だ。


それは知っているけれど、でも、どうして?



「今のまま普通科にはいられないけど、今更辞めるのはもったいないでしょ?
それに時間が自由になる分、資格を取る勉強をする時間だって出来るし。」


「けどアンタ、ネイルの学校に行きたいって言ってたじゃない!」


「ネイルって、専門学校に行かなくても、スクールを受講したりして資格を取る人もいるの。
だからあたし、パソコンの資格取って事務職しながら、子供の手が離れたらそっちの勉強すれば良いと思ってるし。」


こんな一週間足らずで、乃愛は人生を決めていた。


けれど、どうしてこうも裏切られたような気分にさせられるのか。