おずおずと頷きながらも、ごめん、とあたしは言った。



「どうしてお前が謝んの?」


タカはあたしの頭をもたれさせるようにして引き寄せて、



「なぁ、俺のことどう思った?」


「………」


「気持ち悪ぃだろ?
だって俺、こんな方法でしか復讐の形を知らないんだから。」


その胸の中でただかぶりを振った。


タカは息を吐く。



「いつか母親を見つけ出したら、殺してやろうって思ってた。
姉ちゃんの受けた痛みを味わわせてやりたくて、護身用だって言いながら持ってたナイフは、本当は…」


本当は、いつどこで出会うかもわからない母親を、刺してやるためのもの。


みなまで言わずとも、タカの想いは伝わってくる。



「なのにさ、いざ見つけ出してあんな現場に向かったのに、結局は俺、足がすくんで動けなかった。」


「………」


「記憶の中のあの人はもっと綺麗だったはずなのに、そりゃ10年以上も経てばそれなりにおばさんになるんだけど。
でもやっぱ俺や姉ちゃんに似た顔してて。」


「………」


「未だに目を瞑るとアイツが犯されてた光景が鮮明に蘇ってくるし、怖ぇんだよ、俺。」


そう言ってタカは顔を覆う。


血よりも濃いものなんかないというけれど、母親に復讐を果たした結果、彼の心にだって同じくらいの傷が残ったということだ。



「でもさ、起きた瞬間、死のうって思うより先に、俺に抱き付いて眠ってるお前に気付いて、ちょっと笑った。」