アイさんと道明さん、そしてタカの3人で過ごす日々。


それは今のあたし達のような関係だったと、彼は感慨にふけるような目をして言った。



「これ誰にも言ってないんだけどな、あの頃の俺は、いつかアイにウエディングドレス着せてやるのが夢で。」


「…結婚、ってこと?」


「まぁ、そんなとこだな。」


と、少し曖昧に誤魔化した道明さんは、



「アイがもし、タカが成人するまでは、って言うなら、俺はそれまで本気で待つつもりだったし、とにかく家族ってもんを与えてやりたかった。」


「優しいんだね。」


「いや、一番は俺自身がそういう存在を求めてたのかもしれねぇけど。」


けれどアイさんは、死んでしまった。


付き合いだして3年が過ぎた、ある梅雨になるより少し前の深夜、警察からの一報を受けたのはタカだったそうだ。


やっと携帯が普及し始めた時代、メールなんてものはないし、もちろんストーカーの規制法もなかった。


悪質極まりない暴行殺人というだけの判決。



「でも、俺よりずっとタカの心の傷の方がデカかったのかもしれない。」


最愛の姉を失ったタカの心は壊れた。


車道に飛び出して自殺未遂を図った彼は、一命を取り留めて病院に搬送されたが、意識を取り戻しても、食事はおろか、喋りもしない。


だから道明さんは、アイさんが死んだ悲しみを押し殺し、タカの傍に居続けた。



「それから半年くらいして、初めてタカが口を開いたんだ。
ずっと世界を遮断していたアイツが、やっと言葉を発したのにさ。」


彼は一度息を吐いてから、



「俺、復讐しなきゃ、って。」