笑っているのに、どこか無理をしている風に見えた女。


卓についた彼女は18だと言い、仕事がてら何度か指名をしているうちに、マクラで客を引いているという噂を耳にした。


が、別に夜の世界においてはさほど珍しいことでもない。


けど、でも、アイさんの純粋な瞳の奥に悲しみが見えた気がした道明さんは、



「そういうことすんな、って思わず言っちまってさ。
そしたらアイツ、溜め込んでたもんを吐き出すように泣き出して。」


アイさんの、それが死ぬまでに唯一見せた涙だったらしい。


年を誤魔化して、慣れない世界や酒、そして男たちとの関係を繰り返しながらも、壊れる寸前だったに違いない、アイさんの心。


結局はほだされたのかもなぁ、と道明さんは言う。



「俺がいてやるから、って。
金がねぇなら助けてやるし、だからもうお前ひとりで何もかもを背負おうとすんなよ、ってさ。」


告白と呼ぶには苦しすぎる、その言葉。


アイさんは17歳、道明さんは23歳の時だったそうだ。



「あぁ、そういや何の因果か、ちょうど今のお前らと同じくらいの年だもんなぁ。」


彼は笑う。


それでもアイさんは金銭面で道明さんに頼ることはなく、店を替えてからはマクラを辞め、その代わりに昼間の仕事もやり始めた。


どんなに苦しくても、体を売るような日々に戻りたくはないから、と言った彼女は、寝る間さえも削り、けれど毎日笑っていたそうだ。


愚痴も弱音も吐かない姉ちゃんだった、とタカが言っていたけれど。



「アイツはすげぇ女だったよ。
何で俺みてぇなヤクザなんかと付き合ってたのか不思議なくらいにな。」


それはきっと、彼女が道明さんの存在に救われていたからだと、あたしは思う。


でも、道明さんもまた、アイさんの存在に救われていたのかもしれない。