「で、客だった地元の議員に頼んで、アイツ無理やりタカを施設から取り戻して。
それからまたこの部屋で暮らし始めたんだとよ。」


母親は、僅かだか姉弟にお金を残して逃亡したらしい。


それはせめてもの償いの気持ちだったのか、どうなのか。


アイさんはその金の存在を親戚連中にひた隠しにし、こっそりとこの部屋の家賃に充てていたのだとか。


それはいつか、もう一度家族として戻るためだろう。



「この部屋には、最初から3人分の食器があったろう?
あれは、母親とアイとタカのものだ。」


タカが捨てるに捨てられなかった食器。


最初からこの部屋は、思い出だけで形作られていたのかもしれない。



「タカがアイに縋ってたのは、自分を救い出してくれたから。」


「………」


「当時のアイは、まだ幼い弟を養うために、それこそ体使ってまで金稼いでたからな。
本当は高校生の年なのに、飲めない酒飲んで、男に媚び売って、笑顔作って。」


道明さんは少し寂しそうに言った。



「タカはそれを知ってるのかどうなのか、だから余計にアイは絶対的であり、姉以上の存在だったんだ。」


固い絆で結ばれた血の繋がりの中には、他人なんかじゃ入れないスペースだってあるのだから。


アイさんにとっても、弟を育てることだけが生き甲斐であり、支えだったのかもしれない。



「で、まぁ、俺はそんな頃にアイに出会ったわけなんだけど。」


何かを思い出したように小さく笑った道明さんは、



「俺も馬鹿だからなぁ、どうしても放っておけなくてさ。」