母親と、4歳差の姉弟。


アイさんを身ごもったのは、彼女が16だった時。


父親とはタカが生まれてすぐに離婚して疎遠になったらしく、戸籍からは綺麗に除籍されていて、今もその詳細はわからないらしいが。


それでもまだ若かった母親は、水商売をして生計を立てながら、幼いふたりを育てていた。



「けど、アイが中3になった頃だっけなぁ。」


母親は、我が子らを置いて突然の蒸発。


当時から彼女に付き合っていた男の影があったことは幼子たちも気付いていたらしいが、とにかく要は、その彼と逃げたということだ。


中学3年のアイさんと、小学6年のタカ。


いくら支え合おうとも、ふたりでなんて生きていけるはずもない。


何より母親に捨てられた気持ちは、きっとあたしなんかよりずっと大きいだろう、汲み取ることさえ及ばない。



「俺もその辺のことは詳しく知らねぇけど、結局最後はタカだけが施設に入れられたってさ。」


たらい回しにされる気持ちはわかる、と前に、タカが言っていたけれど。


アイさんは親戚の家に、そしてタカは施設に預けられたらしい。


夜中に不在の母親を待ちながら、身を寄せ合って生きてきた姉弟は、離れ離れにさせられた。


それから1年。



「アイは中学卒業と同時に水商売の世界に入った。
母親と同じ世界に身を置いて、どんな想いだったかは知らねぇけどなぁ。」


もしかしたらアイさんもまた、金を稼がなければと思う一方で、母親を探す糸口にしたい気持ちもあったのかもしれない。


まぁ、今となってはそれすら想像でしかないけれど。


でもタカが水商売を嫌う理由としては十分だ。