部屋に帰っても、タカは泣き出してしまいそうな瞳を揺らし、ただ黙ってあたしの肩にもたれかかっていた。


道明さんがホットミルクを作ってくれる。


いらないと首を振ったタカだが、それを無理やり飲まされ、しばらくして、ベッドで気を失うように眠りに落ちた。


まるで子供あやすように添い寝をしてあげていたあたしは、その様子を見届けてから、リビングに戻った。


道明さんはいつもの席で煙草を咥えている。



「アイツ、寝た?」


「…うん。」


「まぁ、眠剤入りを飲ませた俺が聞くな、っつー感じだけど。」


それって軽く犯罪じゃん。


なんて、今は突っ込みを入れる気力すらない。


疲弊した息を吐き、あたしもいつもの席に腰を降ろしてから、煙草を咥えた。



「聞きたいか?」


彼は問うてきた。


嫌だと言えないあたしは、きっと肯定してるってことだ。


こちらを一瞥し、立ち上がった道明さんは、チェストの引き出しを開け、何かをあたしに手渡した。



「これがあいつらの母親だ。」


いつか、タカが隠すように眺めていた写真。


アイさんの小学校入学時だろうか、真新しい真っ赤なランドセルを背負った少女と、母親と呼ぶには若すぎる綺麗な女性が、校門の前で手を繋いでいる。


彼女の反対の腕に抱かれているのは、まだ幼い男の子――タカだろう。


それは希望の光に満ちて見えた。



「残酷で、皮肉な昔話だよ。」