「あたしね、本気でキャバ辞めようって思ったことがあって。
で、悩みすぎてパニックになってた時、久保さんが話聞いてくれたんだけど。」


結香さんは思い出すような遠い目をし、宵闇に包まれた空を見上げた。



「俺はお前のこと好きだし、自分のこと価値がねぇとか思うなよ、って。
尻尾巻いて逃げ癖がつくくらいなら、もうちょっと気張ってみろよ、ってさ。」


「………」


「キャバは汚い仕事なんかじゃないし、誰に何言われようと、お前に会いに来てくれる客がいる以上、泣く理由なんかねぇだろ、って、言われたの。」


道明さんらしい言葉。


彼女はふうっと息を吐いてから、



「あの時に言われた“好き”は、恋愛感情って意味じゃないのにね。
なのに、たった一言で救われたあの瞬間から、あたしにとって久保さんは、特別な人になっちゃったの。」


ね、罪な男でしょ。


と、言いながら、結香さんは精一杯で笑顔を見せた。


人は過去を積み重ねて生きるからこそ、良くも悪くもそれに縛られるのかもしれない。



「って、あたしよりリサの話聞かせてよ!」


「いや、あたしは別に、これといって何も…」


なんて、曖昧に笑うことしか出来ない。


すると彼女は何かを思い出したように、「あっ!」と声を上げた。



「そういえばこの前、うちの店にタカさん来たよ。」


「……え?」


「んーっと、ナントカって女の人を知らないか、って写真見せられてぇ。」