タカの家に帰り、トイレにこもって込み上げてきた胃の内容物を全て吐き出した。


春樹の言葉が頭の中をぐるぐると回りながら、胸焼けを堪えることにすら必死になる。


とにかく怖かった。


先の見えない未来も、自分だけがここに取り残されるような感覚も、何もかも。


いつも周りを恨みながら生きてきたあたしが、今更どうやって生きていけば良いというのか。


うずくまって壁に頭を預けた時、胸元の冷えた鎖がまた揺れた。


拾った頃より少しだけ大きくなったシロの灰色の瞳には、あたしはどんな風に映っているのだろう。


ふにゃあ、とか細い鳴き声が響く。


だから力なく笑った時、ポケットからメール受信の着信が鳴った。




【ごめん、当分帰れない。】




タカ、と呟く声が消える。


ひとりっきりじゃ泣くことも出来なくて、だから上手く涙が流れない。


ただ、蓄積されるばかりの痛みに蝕まれ、あたしは苦しさの中で顔を覆った。


どうして彼は、あたしに何も強制してはくれないのだろう。


感情さえ捨て、タカの人形になれれば楽なのにね。





この時タカがしようとしていたことを、
ずっと抱えていた悲しすぎる想いを、


あたしはまだ知らずにいたね。