先日の電話以来だが、無視をすることも出来ず、ため息を吐いた。


すると彼はあたしの横に来て煙草を咥える。


人の波が通り過ぎる中で、



「なぁ、姉貴。」


春樹は消え入りそうな声で呟いた。



「俺、学校行きてぇよ。」


「………」


「あれから色々考えたんだけどさ。
今更だけど、ちゃんと勉強して、そしたら少しは何かが変わるんじゃねぇか、って。」


彼が吐き出す煙が空の色に滲んだ。


過去は向き合うだけではダメで、ちゃんと自分の中で消化して初めて乗り越えられるというけれど。


春樹の葛藤が痛いほどに伝わってくる。



「あと、借りてた金は、いつになるかわかんねぇけど、絶対返すから。」


「良いよ、あんなもん。
別に元々あたしが稼いだお金でもないんだし。」


と、いうか、コイツの口からそんな言葉を聞く日が来るだなんて思わなかったけれど。



「それに、本気で学校に行きたいんなら、アンタには必要でしょ。」


雪解けのように和解したわけでもないけれど、でももう昔のようには憎めない。


血の繋がりとは不思議なものだ。


生きるということは、前に進むということなのだろうか。



「あたし達は5年前とは違うし、もう、ただ捨てられただけの子供じゃないんだから。」


何かや誰かの所為にしたって、それでは解決なんてしないと学んだから。


あたしも、春樹も。


仰ぎ見た空は、遮るものなんて何もないほど、太陽の輝きが眩しかった。