どこに行くのかもわからない車内は、これといった会話もない。


まだ夜が明けきっていない世界は静まり返っていて、まるで制止した映像のよう。


ただ、タカは車を走らせ、あたしはその横で、首にある金属をいじっていた。


それから小一時間ほどドライブのような状態が続き、車は徐々に山道を登っていく。


来たことのない場所だ。


だから少し不安を覚えたものの、曲がりくねった上り坂の中腹の辺りまで差し掛かったところで、彼は車を脇に停車させた。



「え、降りるの?」


と、聞いたのに、やっぱりまともな答えはない。


なので仕方がなく小走りにその後ろ姿を追うと、【展望台へ】という矢印つきの看板が目に入った。


きょろきょろしていると、今度は転びそうになってしまい、見かねたタカが手を引いてくれる。


そのまま歩いていると、視界が開けてまた驚いた。


展望台と名付けられたそこからの景色は、海と、湾岸地区の工場地帯が見下ろせ、不思議な世界が広がっている。



「何これ、すごい。」


ほの暗い海から吹く風は潮が混じり、輸送用のタンカーが光を放つ。


灯る明りは赤や黄の色で点滅し、幾数もの工場の煙突からは、宵闇に向け、白雲を立ち昇らせていた。


初めて見る景色に言葉も持てないまま眺めていると、次第に空が白み始めた。


夜明けの訪れだった。



「俺、お前に何もやれねぇからさ。」


タカは明るくなっていく世界を見つめながら目を細める。