タカとはこんな状態になってもなお、将来の話なんかすることはない。


だから彼はあたしがどうするつもりなのかさえ聞いては来ないし、どうしてほしいとも言われないから。



「あたし今、先のことなんか考えてる余裕ないし。」


あたしの言葉に春樹は電話口の向こうで少し沈黙してから、



『なぁ、俺ら二度も捨てられるってことだぜ。』


「………」


『家族ってさ、何なんだろうな。』


その呟きが、物悲しかった。


彼は今も心のどこかで、血の繋がりにぬくもりを求めているのかもしれない。



『俺、女からガキが出来たって言われたんだ。』


「…え?」


『けど、堕ろさせた。
年がどうとかじゃなく、俺みたいな“家族”を知らない人間が、真っ当な“父親”になんかなれねぇから。』


咥えた煙草のメンソールが、鼻腔の奥につんとした冷たさを残す。


春樹を責めることが出来なくて、ただ言葉も出ないまま、沈黙が重い。


だってもしもあたしがタカの子を身ごもったとしても、産むという選択肢を選ぶ自信なんてないから。



『俺、これで本当に人殺しになっちまったよ。』


確かに、避妊しなかった春樹は悪い。


けれどそんな道しか選択しか出来なかった気持ちを想えば、ただ胸の痛みに蝕まれた。


空の青さにやるせなくなるよ。