タカの部屋に帰ると、おかえり、と言って抱き締められた。


世界中で唯一、あたしを愛してくれる人。


だから今この腕の中にいられるなら、他の何を捨てたって構わない。



「もう帰って来ねぇのかと思ったじゃねぇか。」


タカが言うから、笑ってしまう。



「あたしね、お母さんに啖呵切っちゃったし、今度こそ本当に捨てられちゃうかも。」


「そしたら俺がお前のこと奪ってやるよ。」


嬉しかった。


ちっぽけな明日の約束なんかよりずっと、あたしには意味のあることのように思えたから。



「ありがと。」


例えば彼の仕事とか、抱えているものとかが、気にならないわけではない。


けど、それでも、タカの一番近くにいたかった。


シロはあたし達の元へと寂しそうに擦り寄って来て、喉を鳴らす。



「ほらぁ、またコイツに邪魔されるし。」


タカは肩をすくめてシロを抱え上げた。


短くて黒いその毛並みを撫でながら、彼は困ったように笑っている。


ただ幸せだった。


永遠さえ願いそうになるほど手放したくなくて、自分の欲深さが嫌にもなるけれど。


ねぇ、タカはあの頃、何を想ってた?