どうしてタカは、あたしなんかのためにそこまでしてくれるのだろう。


口内に広がる苦さ以上に、胸が締め付けられてしまう。



「雷帝さんはさ、俺にとっても恩人なんだ。」


春樹は言った。



「腐ってたあの頃、雷帝さんが拾ってくれなきゃ俺、今頃どうなってたかわかんねぇしさぁ。」


まぁ、今だってろくでもねぇことやってるのは同じだけど。


そう付け加えて煙を吐き出した彼は、闇空を仰いだ。



「だから、そんなあの人に姉貴のことが大事だとか言われて、すげぇ困ってんだよ。」


泣けるくらい笑ってしまった。


タカの優しさと、春樹の苦笑いが、夜風に沁みる。


それはお母さんに張られた頬の痛みさえ消え失せるほど、あたたかなものだ。



「あ、俺そろそろバイトの時間だわ。」


「…バイト?」


「居酒屋だよ、年誤魔化してっけど。」


ちょっと信じられなかったけど、人は変わるものらしい。


謝ることも、許すという言葉さえも使わないけれど、でもあたし達はもう、互いを傷つけ合うようなことはしないだろう。



「しっかり社会貢献しなさいよね、不良馬鹿。」


「てめぇに言われたくねぇけどな。」


小さく笑ってから、ふたり、別々の道に別れた。


親なんか関係なくて、ただ、自分の人生を歩むために踏み出した一歩は、いつか人に誇れる日が来るのだろうか。


5年ぶりに見た春樹の笑顔だった。