全てを聞き終えた時、あたしも乃愛も怒りに震えた。



「許せないよ、警察行こう!
泣き寝入りなんか絶対ダメだよ!」


そう言った乃愛を制したのは、結香さん。



「ねぇ、警察に行くってことがどういうことか、わかって言ってる?」


「…え?」


あたしの友達もレイプされたことがあるの、と前置きをした彼女は、



「事情聴取って、何から何まで聞かれるんだよ?
どこをどんな風に触られたか、どの角度で何秒か、その時スカートはどんな風だったか、って。」


「………」


「被害届を出して、もしも犯人が捕まって起訴されたとしても、今度は裁判でより多くの人に同じこと聞かれるんだよ?」


それに耐える覚悟がないなら無理だと、結香さんは言った。


梢はまた涙ぐむ。



「悔しいけど、世の中なんてそんなもんだよ。」


夜の世界で、あたし達よりずっと多くのことを経験している彼女の言葉は重い。


乃愛はまるで自分のことみたいに、ひどいよ、ひどいよ、と繰り返していた。


所詮は高校生で、ただの子供のあたし達が、調子に乗って、車持ちだからとか奢りだからとか、男達を利用していた結果がこれだ。


上手く遊べば大丈夫だ、なんて過信は消えた。



「警察が無理なら、誰かに頼めば…」


「乃愛!」


今度はあたしは制した。


そんなことをして報復したって、梢の受けた傷が消えるわけではないのだから。