縋るように、見られないようにとその胸の中に顔をうずめれば、色濃く感じる彼の香り。


どうやら家で寝てると言ったことがアダになってしまったようだ。


タカは少し震えていた。



「なぁ、誰に何されたんだよ!」


まるで強盗にでも入られたかのような部屋の中で、暴漢にでも襲われたかのように気を失っていたあたし。



「とにかく病院が先だ!」


そう言った彼に、嫌だと首を振った。



「…別に、ただの姉弟喧嘩だし…」


だからこれ以上心配しないで。


そう付け加えるより先に、タカの戸惑いを帯びた瞳を見てしまった。


彼が悲しそうな顔をする度に、強がれなくなってしまいそうで怖い。



「平気だよ、これくらい。」


だってこんな風にしないと、春樹に復讐出来ないから。


例えそれが過去に囚われているだけだとしても、あたしは許し方なんて知らないから。


もう、昔のようには戻れないから、だからあたしはアイツの心に傷をつけてやるの。


どちらかが死ぬまでは、ずっとね。



「もしもあたしが死んでも、タカが泣いてくれるならそれで十分だから。」


出来る事なら命途切れるその瞬間には、今みたいにタカの腕の中にいたいけど。


なんて、我が儘なのかな。


弱々しくも腕を伸ばすと、タカはあたしを抱き締める手に一層力を込めてくれた。