ガッ、という脳を揺さぶるほどの衝撃と、アゴにもたらされる強烈な痛み。


口内には血の味が広がった。



「んだよ、その目は!」


馬鹿な男。


本当のアンタは、誰より臆病者だって知ってるよ。


木下くんが死んだあの日から、いつも人の目に怯えながら生きてきた、って。


だから自分を強く見せるために虚勢を張ってるだけで、実際はあたしのことだって怖いと思ってるんでしょ?



「薄気味悪ぃんだよ!」


吐き捨て、春樹はあたしをフローリングへと投げ飛ばした。


ぶつかって、テーブルの上にあった灰皿は地面に落下し、打ち付けた脇腹が痛みを放つ。


息が出来ない。



「てめぇは5年前のあの日から、ずっとそうやって俺を見下して嘲笑ってんだろ!」


狂ったように春樹は叫ぶ。



「蔑んだ目しやがって!」


髪の毛を掴まれ、また首を絞められる。


それでも抵抗することなくあたしは、春樹の歪んだ形相を睨んでいた。


ふざけんな、殺してる。


彼はそればかり繰り返しながら、最後はフローリングを殴り付けた。


まるで泣いているみたいな顔をして。



「…ちくしょうっ…!」