5年前の今日、木下くんという男の子が、学校のトイレで首吊り自殺をした。


彼は当時中学一年生で、春樹のクラスメイトでもあった。


元々ヤンチャで活発な春樹とは対照的に、木下くんは本ばかり読むような大人しい子だったと聞いている。


悪く言えば、いじられキャラ。


当時からクラスのリーダータイプだった春樹は、事あるごとにそんな木下くんにちょっかいを出していたらしい。


それは幼さゆえの、無邪気な遊びの延長であり、本人は決していじめているつもりなんかなかったらしいけれど。


でも、木下くんは自殺をした。


すると当然のように疑惑は春樹に向けられる。


けれど、遺書もなく、当時私立だった中学校は事件を揉み消した。


我が校においては、何の問題もありませんでした、と。


木下くんが自殺をした本当の理由なんて誰にもわからないし、それは一生明かされることはない。


けど、でも、一番怖いのは人の噂。


うちの両親はそれに耐え兼ね、引っ越しまでして地元を離れた。


あたしと春樹は私立中学から転校し、忘れなさい、と強く言われたことを覚えている。


消えない傷はあるというのにね。


何もかもが狂い始めたのは、その頃からだ。


春樹は常に苛立ち、それをぶつけようと人や物に当たり散らすようになった。


恐怖を感じた両親は早々に海外に逃げ、そしてもう5年。


5年間、何も変わらない闇の中で、あたし達の時間は止まったまま。


何の関係もないあたしの人生までもを巻き込んで、それはまるで、決して抜け出せない地獄のようだ。