「ねぇ、リサ。」


不意に乃愛はあたしを見た。



「アンタ何か隠し事してるでしょ。」


まるで見抜いているかのように、彼女は言った。


だから思わず言葉に詰まると、



「誰にも言えないような恋なんだね。」


自分と同じだとでも言いたげな、その瞳。


同情しているような、どこか悲しげなそれは、あたしを見透かすように緩められる。


途端に乃愛に対して苛立ちが生まれた。


タカとのことは知られたくはないし、だからまるで心の内を土足で踏みにじられた気分だ。



「…恋なんて、してないし。」


吐き捨てた言葉が喧騒に滲む。


そうだよ、“春樹の姉”であるあたしが恋愛だなんて、おこがましいにも程がある。


だって、アイツは――



「あ、授業始まっちゃうね。」


他の生徒の声に遮られ、脳裏をよぎった言葉を振り払った。


時間を確認しようと開き見た携帯には、嫌な日付けが打たれている。





今日は木下くんの命日だ。