再び刃物を振り降ろそうとしたタカを、



「もうやめて!」


あたしは必死で制した。



「タカ、お願いだから!」


彼はひどく冷めた瞳でこちらを一瞥する。


男は今のうちにとばかりに逃げようと身をよじるが、タカはその頭を鷲掴んで舌打ちを吐き捨てた。



「おい、ポリ公に俺らのことタレ込んだら、次はねぇぞ。」


「…ひぃっ…」


「二度と俺のモンに触んな。」


ドスの利いた声で言い、彼は最後に男の腹部を蹴り上げる。


うっ、といううめき声を聞くこともなく、タカは鮮血に染まった手であたしの腕を掴んで引いた。


足がもつれるが、とにかくこの場から逃げ出したかった。


息が上がって、走れなくなっても、どこか身を隠す場所を求めた。








散々走り、辿り着いたのは、人気の一切ない路地裏。


薄暗くて、湿っぽくてカビ臭いその場所は、物悲しげな頼りない月明かりだけが照らしている。


あたしはその場にへたり込んだ。



「あの野郎、もう一発くらい殴ってやるべきだったぜ。」


タカは苦々しそうに言いながら、血のりがべっとりと付着したナイフをポケットに仕舞う。


月夜に照らされたそれは、ぞっとするほど輝いて見えた。