弾かれたように逃げようと足を引いたけれど、元々酒の入った体は上手く動いてはくれない。


すぐにもつれるように揉み合いになり、結局は容易く捕まってしまった。


男はこれ見よがしに口角を上げるが、あたしは負けないようにと睨みつける。



「離してよ!」


精一杯で声を荒げたのに、



「悲鳴上げて損するのはどっちか考えろよ?」


この前とはまるで別人のように、ドスの利いた声。


あたしの腕を掴んだまま、彼はじりじりと間合いを詰めてくる。


とにかく、いつタカが戻ってくるかもわからないこの状況は、マズイ。


唇を噛み締めると、あたしが抵抗するのを諦めたと思ったのか男は、



「俺もそろそろ溜まってたし、ちょうど良かった。」


あたしを掴む手の力が強められた。


もしこのまま車まで引きづられたら、本当に逃げられなくなる。


けれど、叫べばタカに知られてしまうかもしれなくて、どうすることも出来ない。


男はあたしの腕を引きながら、



「すぐ済むし、この前だって合意の上だったろ?」


まるで弱味をチラつかせるように嘲笑った。


一瞬にして抵抗する術さえ奪われてしまう。


だから身を固くすると、舌打ちを吐き捨てた彼が平手を振り上げた。


殴られる、と思った瞬間、



ガッ、



と鈍い音が響き、男が地面に倒れ込む。


恐る恐る振り返ると、あたしの後ろには、恐ろしいほどの剣幕のタカが佇んでいた。