「ちょっとぉ、傘まだぁ?」




建物の影から、不意に声がした。



女の子の声が。



「ごめんごめん、ちょっとまってて」


「超寒い!!マジ早く傘持ってきて!!」


「はいはい」



彼は、やれやれといったリアクションで、私を見た。


「困っちゃったよ、お姫様でさ」


「彼女?」




「ん? まぁね、そんなところかな」



それを聞いて、お腹の中が冷えて行くような気がした。


耳の中を、雨の音が満たしていく。



その音が、冷えた体をさらに冷たくしていった。


「図書館の…」


「ん?」



「図書館の裏に、コンビニがあるよ」



私がそういうと、彼は微笑んだ。



「そっか、有り難う」




女子漫画の王子様みたいな人なんだから、お姫様が居て当たり前だ。




私は、そこで気が付いた。



恥ずかしくて、居たたまれなくて、


「あたし、帰るね」




言うなり、逃げるように走り出していた。



雨は気にならなかった。




もっと降れば良い。



私の気持ちを、全部洗い流して、消し去ってしまえば良い。


私みたいな地味で目立たない子が、



みんなの憧れの彼と少しでも喋る事が出来ただけでも幸運だったのだ。




漫画の中なら、彼が雨の中追いかけてきてくれる。


でも、これは現実。






地味子は、お姫様にはなれないのだから。










気づいた瞬間に、終わってしまった。




仕方ない。これが、私の運命なんだから。





家に着く頃には、雨は上がっていた。




END