とぼとぼ、バス停まで歩いていく。


「ワン!」


 子犬の鳴き声がした。


 思わず振り返る。


「…あっ」


 いつも、バス停で見る彼だった。


「ワンッ!」

 子犬が、リードを引っ張って私の方へと近づいてくる。

「…」

 子犬は私の前で止まる。

 しっぽが激しく揺れていた。

「…可愛い、ですね」

 思わず話しかける。

「うん」

 どうして良いか解らなくて、視線が泳いでしまう。


 しばらく沈黙。

 会釈をして、立ち去ろうかと考えていた所で、


「…足、大丈夫?」

 と言われた。


 やっぱり、見られてた…!

 顔から火が出そうで、うつむくと、



「バスで、いつも見かけるから…さ」


 と、彼が言う。


「…え?」

「バス、すれ違うだけだけど、気になって」

「え?」

「そしたら今日、2回目、姿見られて」

「……」

「転けるし」

「こ、転んだのは、不可抗力でっ!」

「どうして?」



 見ていたから、と。


 あなたを、見ていたから。