「わかったわよ!! なんなの、マジで!!」
バスが停車して、女子高生は怒りを露にしたまま降りていく。
謝っていかなかった!! 私は、そのことに驚いた。
「あの…」
急に声をかけられた。
スーツの彼だった。
「はい?」
「…助けてくださって、どうも有り難うございました」
彼は、私に向かって頭を下げた。
「とんでもない。きっと見ていたのは私だけだったと思うので…」
本当に感じの良い人なんだなぁと思った。
「あのまま、誰も何も言ってくれなかったら、僕は捕まっていました。本当にどうもありがとう」
「いえ、そんな」
彼は、名刺を差し出してきた。
「あらためて、お礼をさせていたただきますので…」
差し出された名刺を受け取りつつ、
「そんなつもりじゃないので…!!」
そう言ったが、彼は何度も頭を下げ、名刺を渡してバスを降りていってしまった。
私はその名刺と降りていった彼の姿を交互に見比べる。
毎日使う、通勤のバス。
少しだけ、特別なものに感じた。
END