「理子ちゃーん!!今、手が離せないから、でてもらえるかな!?」


一階から、お父さんの叫び声がする。


「……――はーい!!」


あたしは目に浮かぶ涙をゴシゴシと手の甲で拭うと、急いで受話器をとった。



「はい、姫野です」


「あ、もしもし?祥子(しょうこ)さん?私です。一ノ瀬です」


聞き覚えのあるしゃがれた声。


思わず心臓がドクンっと不快な音を立てる。



「……違います。理子です。お母さんは遼くんと出掛けてます」


「あ~、理子ちゃん。声がよく似ているから、分からなかったわぁ」


おばさんは興味なさげにそう言った。