充は不満を隠しながら聞いてみる。
「それで、彼は何だって?」
桃香はもう一度ジョッキに口をつけて、不服そうに答える。
「なーんにも。うんともすんとも言わないの」
「まあ、そりゃそうだ」
彼はいないのだから。
「結婚を決めた彼女が浮気したのによ? 怒りもしないし、泣きもしないの」
「そこに私はいませんって、何かの歌で言ってたしね」
「うん。それ、本当ね。彼はお墓にはいないみたい」
たとえそこにいたとして、彼はどう思っただろうか。
怒っただろうか。
泣いただろうか。
充は複雑な気持ちでジョッキを空けた。