桃香の腕が再び背中に巻き付くと、何とも言えない幸福感で満たされる。

 彼女は泣いたり怒ったりしてばかりで、充の前ではなかなか笑顔にならない。

 でもそれは、二人の距離が近付いているから。

 そう信じたい。

「一人で心細いなら、一緒にいる」

「うん」

 桃香が望むなら、いつだって。

「クモが出たら、退治する」

「うん」

 桃香が頼るなら、何だって。

 できるだけ力になる。

 だから……。

「だからさ、早く忘れなよ。その人のこと」

 桃香の腕がキュッと絞まった。

「ごめん。それだけは……無理なの」