この部屋は一人で住むには広すぎる。

 桃香はタバコを吸わない。

 様々な可能性があるけれど、男の線が最も自然だ。

 桃香は顔を伏せて、ソファに手をついたまま黙っている。

「一緒に住むはずだった人が、いるんじゃないの? まだその人のこと、好きなんじゃないの? ただ寂しいだけで、俺とそういうことしようとしてるんじゃないの?」

 桃香は静かに泣き始めた。

 静かな部屋にグスッとすすり上げる音が響いた。

 桃香を捨てて出て行った男なんて、忘れてしまえばいい。

 忘れたいという理由なら、ちゃんと話してくれるなら、何度だって抱いてやる。

 そういう気持ちでいた。

 しかし。

「なんでそういうこと聞くの?」