桃香は困った顔をした。
いっそのこと、悪い女なら良かったのに。
騙してくれれば、簡単に誘惑に負けることができたのに。
「それでもいいのなら、隣の部屋、行こう」
隣の部屋。
2週間前、クモが現れた寝室。
ダブルベッドは、二人が寝るためにある。
それが意味することを、桃香だってわかっているはず。
「俺、この間ここに来たとき、すげー我慢した。ラブホでも、死にそうだった。今日はもう、これ以上は……たぶん、無理」
「無理に我慢しなくたって、いいのに」
桃香の言葉は凶器のようだ。
「俺にはヤケになっているようにしか聞こえない」
「ヤケ? あたしが?」