「池田さん」

 呼びかけてみるが、返事がない。

 それどころか、桃香はくるっと踵を返して逃げるように歩き出してしまった。

 充は慌てて追いかける。

「ちょっと待って!」

 すぐに追いつき、腕を掴んだ。

「池田さん」

 それでも桃香はこちらに顔を見せようとはしなかった。

 充とは反対の方を向き、財布で顔を隠すように陰を作る。

 コーヒーとタバコを持つほうの手で顔から財布を放すと、桃香は観念したように充と目を合わせた。

「ちょ……どうしたの?」