突然誠意を向けられ、シンは一瞬戸惑う。

―――クオンの様子が、出会った時とは別人のようであったからだ。


「気にしていない」

シンはため息をつくと、布団をはいだ。

「まだ動いちゃダメだよ」

足がふらついたシンを、ヒカリが止める。

やむなくシンは、ベッドに座った。

「俺の怪我、治したのはアンタか」

それから、ぽつりとクオンに尋ねる。

「うん」

迷わず、クオンが肯定した。

「なら、何故俺の力にこだわる。アンタの力に比べれば、たいしたことないだろ」

シンは、そっけなく言い切る。

それに対して、クオンが静かに首を横に振った。

「キミは僕よりも、とてつもない能力を秘めてる。強く、大きな…ね」

そして両手を固く握り、目を伏せる。

部屋の壁に寄り掛かるミツキとハルは、じっとシンを見据えていた。

重々しい空気が、室内を支配する―――


「俺には、何もできない」

シンが立ち上がり、傍らの籠からショルダーバッグを取り出した。

「お兄ちゃん…」

不安そうに、ヒカリはシンを呼ぶ。

「俺が本当に何かを為せる存在なら、今頃後悔なんてしてない…かいかぶるな」


―――昨夕の記憶が、鮮明に蘇った。

シンは他に誰もいない屋上で、遠くの空を眺めている。

『何もできない』

わずかに眉をひそめ、心の中でその言葉を反復した。