翌朝―――


「おはよーっ」

シンは後ろから声を掛けられるも、反応を示さない。

「おはようございます、伊勢先輩。橘先輩も」

シンと共に登校するヒカリが、丁寧に挨拶を返した。

「ミツキでいーよ、ヒカリちゃん。あ、こいつはハルねっ」

笑顔の伊勢珠月(イセミツキ)は人差し指で、ハル――こと橘晴彦(タチバナハルヒコ)をさした。

その時、シンの肩へハルが手を掛けた。

「ヒカリちゃんは答えてくれるのに、お兄ちゃんはシカトー??」

挑発的に顔を覗きこまれ、嫌気がさしたシンはハルの腕を払う。

「馴れ馴れしくするな」

足早に歩き、距離をとった。

シンの背中を、三人は立ち止まり見つめる。

悲しげな瞳のヒカリが、はっとしてミツキとハルに向いた。

「ごめんなさい。お兄ちゃん、人と接するの苦手で…」

深く頭を下げるヒカリに、二人は穏やかに微笑む。

「アタシらは、全然平気だよっ」

「お兄ちゃんの性格は、よーくわかってるし。気長にやるさ」

脳天気な口調で、ミツキとハルは言ってみせた。

ヒカリが、その言葉に安堵したように笑う。

「ありがとうございます。これからもお兄ちゃんのこと、よろしくお願いします」

再び礼をすると、先へ行くシンの方に走った。

「ホント、素直だねぇ。あのコは、さ」

いささか拍子抜けしたミツキは、指で頬をかく。
ハルが、思わず吹き出していた。

「お兄ちゃんも、素はあんな感じなんじゃねぇ??今は警戒してるだけで」

そう言って歩き始めるハルを追い、ミツキが怪訝な顔つきに変わる。

「そっかぁ??他人を信用したりしなさそうじゃん」

首をひねりつつ、反論した。

ハルは、ひらひらと片手を振る。


「人は見かけによらないもんだぜ??…それに、俺たちが従うべき人間には変わりない。そうだろ??」

真剣な眼差しのハルに、ミツキがゆっくりと頷いた。