約五分後―――
上級生たちは皆、気絶していた。


「お兄ちゃんっ」

乱闘が終わると、ヒカリはシンに駆け寄る。

勢いのまま抱きつかれ、かすかに傷が痛んだが、シンがヒカリの髪を優しく撫でた。

「平気か??」

「うん、私は大丈夫…でも、お兄ちゃんがっ…ごめんなさい…」

血が付着したシンのセーターを握りながら、ヒカリは泣いている。

「何のつもりだ…」

ヒカリを腕で守りながら、シンが橘と伊勢を交互に睨んだ。

「何がー??」

伊勢はとぼけると、聞き返す。
傍らで、橘が笑みを浮かべていた。

「ヒカリの誘拐を匂わせておきながら、何故助けた」

シンの冷静な主張で、橘と伊勢が真顔に変わる。


「訳は、僕から話そう」

橘の背後を一つの影が横切り、正体を現す。
シンは、己の眼を疑った。
『僕』と自らを呼びながら姿は見せたのは、シンに意味深な言葉を残したあの女子生徒である。

白いローブを纏い、紅い宝石と黄金の額当てを飾り、異質な雰囲気を漂わせていた。

「キミを観察したのは、キミが宿命を辿るにふさわしい者か見極めるため」

強さを秘めた中性的な声が、シンの耳へ届く。

『宿命』

心の中で、シンはその単語を反復した。
怒りが頂点に達した時、不思議な力が溢れてきたのは事実である。

しかし―――

「もう、いい。アンタらとは関わらない方がよさそうだ」

妙なことに巻き込まれたくない、という思いが募っていた。

シンは、浮かび上がってくる全ての思考を遮断し、ヒカリの鞄を拾う。

「キミが目を背けずに闘わない限り、今日みたいなことは必ず起きる…大切な人を巻き込んだとしても、闘わなきゃいけないんだっ」

そう告げる少女を振り切るかのように、シンが無言でヒカリの手を引いた。

「お兄ちゃん…」

ヒカリは、眉を垂れてシンに従う。

すると、シンの足元に雫――鮮血が、したたり落ちた。

「…お兄ちゃんっ?!」

ヒカリの呼びかけが遠ざかり、シンは急激に身体の力が抜けていくのを感じる。

「お兄ちゃんっ!!しっかりしてっ!!」


青ざめるヒカリの顔が徐々に見えなくなり、シンは意識を失った―――