翌朝―――

高等部の門を通ったシンの脳裏には、昨日の出来事が蘇っていた。


「どうしたのよ、お兄ちゃん」

帰宅してからというもの、ヒカリに何度も問いただされた。

「気にするなって」

直感的な行動であったがゆえ説明できず、シンは言葉を濁した。

―――その結果、ヒカリは責めることをしないものの、『休みの日に買い物へ行こう』と約束するまで、登校中ずっと無言であった。


ふと気配を感じ、シンが顔を上げる。
校舎をつなぐ二階の渡り廊下の窓から、横並びの三人がこちらを見つめていた。

一人は幼い顔立ち、その両隣には切れ長の眼の少女と、長身の少年が立つ。
三人の挑発的な笑みに対し、シンは昇降口へ入るまで睨み続けた。

靴を履き換え、三階に到達すると、一人の小柄な女子生徒が壁に寄り掛かっている。

「おはよう、神園くん」

先刻の、三人組の一人である。
くったくのない笑顔は、より幼さを引き立てた。

「ケンカ、売ってんのか」

不機嫌をあらわにして、シンが通り抜けようとすると、女子生徒が進路を塞ぐ。

「ちょっと、お話があるんだけど」

「俺にはない」

女子生徒の肩を押しのけ、シンは教室に面した廊下へ向かった。

「…妹さん、何もないといいけど」


背中に投げかけられ振り返ると、もう女子生徒の姿はなかった―――