「お兄ちゃん!!お待たせっ」

『中等部』と書かれた標札の傍らに立つシンのもとに、少女が駆けてきた。

「慌てないでいいって言ったろ、ヒカリ」

焦ってきたらしい妹――神園ひかりを、シンは気遣う。

「だって、思ったより遅くなっちゃったし…」

「気にするな」

息を切らすヒカリの頭を、シンの手が優しく撫でた。

「ねぇ、駅前寄ってっていい??」

歩き始めたシンに並び、ヒカリは尋ねる。

「何か、欲しいもんでもあるのか」

「うん。お母さんの誕生日プレゼント」

シンが聞き返すと、ヒカリは頷きながら答えた。

「そうだったな…俺も一緒に買っていいか??」

「うん!!私もお兄ちゃんと選ぶつもりだったし」

シンの申し出を、引き受けたヒカリが微笑む。
そして二人は、大通りに差し掛かり、歩道橋を上り出した。

その時―――

シンは、不穏な空気を感じた。

まるで、誰かに見張られているような―――

「…どうしたの??」

急に立ち止まった心に気が付き、ヒカリが振り向く。
その声で、シンは我にかえった。

「お兄ちゃん??」

目だけで周囲を窺っていると、ヒカリが心配そうに階段を降りてくる。

「…帰るぞ」

シンはヒカリの手を掴むと、踵を返した。

「ちょっ、ちょっとお兄ちゃん?!」

一気に階段をかけ降り、路地へ入って住宅街を走る。
ヒカリの困惑を背中に感じながら、シンは足を進めた。

「お兄ちゃんってばぁ…」

半泣きになり、ヒカリが呟く。

しかし、シンは口を開くことはせず、ただ帰路を走った。


ほど近い商社ビルの屋上で、三つの人影が動めいた―――