「犯人を追う。後は頼む」
やや俯き加減で言い、シンはフェンスを軽々と登り切った。
そのまま、躊躇なく飛び降りる―――
ミツキとハルが地上を確かめた時には、シンの姿は中等部へと駆け出していた。
「俺はアイツに付く。お前は、クオンを頼む」
フェンスを越えながら、ハルは指示をする。
落ち着き始めたミツキを見届けると、やがて飛び立った。
『またか…』
シンは既視感に襲われ、下唇を噛み締める。
眉をひそめながらも、ひたすら地面を蹴った―――
中等部の中庭に入ると、生徒たちがざわめく。
すべてを無視して校内に入り、屋上へと繋がる階段を駆け上がった。
「お前、足はえーなっ」
ハルがシンと肩を並べて、感心している。
シンは、無言でハルを見た。
「クオンのことは、ミツキに任せてきた。ま、心配いらねぇよ」
穏やかな口調で、ハルが言う。
間もなく二人は、建物の五階・屋上へ辿り着いた。
シンは流れのまま、扉を開ける―――が、そこには誰もいなかった。
「逃げられたか」
わずかに乱れた呼吸を整え、ハルは辺りを見回す。
シンが、フェンスに寄って高等部の校舎へ向いた。
「方向からして…この位置か」
分析しつつ、フェンスや足元を観察する。
それから、屈んで地面にある物体を手に取った。
「これは…」
「BB弾だな」
シンの掌にある小さな白い玉を覗いて、ハルは告げる。
「結構な数、落ちてんな」
ハルの靴裏がBB弾を転がし、量を確かめていた。
その時、どこからか鈍い振動音がする。
「おう、ミツキ」
ハルは即座にズボンのポケットから携帯電話を出し、シンを背に対応を始めた。
「ああ。そっか、わかった。じゃあ、今から行く。…詳しいことは後でな」
早々と通話を終え、ハルがシンへ振り返る。
「クオンは、俺の親父の病院に運んだってさ。学校の保健室じゃあ、何かとめんどくせぇ事になるからな」
そう述べるハルの顔は、苦笑いを浮かべていた。