蔵原(クラハラ)学園高等部、裏庭―――

柔らかな栗色の髪が、ふわりと風に揺らぐ。
季節は夏に傾き始め、何にも覆われない太陽が、暑いくらいの光を照らし続けている。

栗色の髪の少年は寝転んだ身体を起こし、仏頂面で白いセーターを脱ぎ捨て、薄青のカラーYシャツ一枚になった。
始業を告げるチャイムがなっても、平然と仮眠を続けていた。しかし、思いの外上昇した気温に妨害されてしまう。

少年は唯一の木陰である、中等部のグラウンドとの境界になるフェンスに寄り掛かった。ゆっくりと空気を吸い込んでいると、背後から高い声が多数近づいてくる。

「早くー!!時間なくなるー!!」

切羽詰まった調子で、女子生徒たちが足早に体育倉庫へ入って行く。

やがて、生徒たちは散り散りになって、時折言葉を交わしながら、ボールを投げ合う音が聞こえてきた。

すると突然、『カシャン』とフェンス越しに何かが後頭部を殴る。
衝撃に振り向くと、そこには体育着姿の少女が、左手にグローブをはめて笑っていた。
少年に当たっただろうボールを、少女は白い手で拾い上げる。

「またサボってるの??余裕だね」

少年とよく似た質の長い髪が、少女の歩みと同様に動いた。

「…眠いから、寝てた」

少年は、視線をはずして答える。その目の端には、むくれ顔が映った。

「もう…」

微少に眉を垂れる少女に、少年の口元はわずかながら笑みをつくる。

「わかった。今から教室に戻る。そんな顔するな」

優しい口調で立ち上がり、制服を軽く払う。少女はたちまち明るい表現に変わった。

「ほら、友達待ってんだろ。もう行け」

「あ、ホントだ!!…じゃあ、あとでメールするね。お兄ちゃん」

少年に促され、友人が手を振っているのに気がついた少女が、駆けていく。


妹の後ろ姿を目で追った少年――神園心(カミゾノシン)は、緑の葉をつけた桜並木の下を歩き出した。