何も言えなくて、ギュッと自分の服の裾を握り締める。


「泣かないでよ」


そう言われて初めて、頬を濡らす冷たい雫に気付いた。
目尻に溜まったそれを、凛桜は消えそうな細い指で弾く。

切なそうに笑みを浮かべる凛桜を見て、そんな表情をさせてしまったことに胸が痛んだ。


「ねぇ、奈津。一つお願いしてもいい?」


ふと凛桜が言った。

瞳も声も、優しくて穏やかで、それが逆に淋しくなる。

コクリと頷いて、「いいよ、言って」と促す。

凛桜は安心させるように微笑んだ。


「僕を忘れないで。絶対」


囁くように、しっかりとした声でそう言った。

耳に届く声は甘い。
くらくらする。


「忘れないで」


凛桜は狡い。


瞳が光る。

我慢が出来なくなって抱き締めた。


花の香りがする。

でも、抱き締めてる感覚はほとんどなくて、ちゃんとあるのに、まるで空気を抱いてるみたいだ。