「真っ暗で、初めてだったの。周りの人の顔も見えないくらい、暗いとこで起きていたのは」


言葉を切って、ふっと俯いた。

それから少し間を開けて「だから」と続ける。


「光を探したの。ほんの少しでいいから、照らしてくれるものを。…で…」


そこで顔を上げて、凛桜を見つめる。

口元を緩めて、視線を更に上に向けた。


「その時探したのが、月だったの」


暗く深い青の中に、欠けた月が浮かんでいる。

それが少し淋しくて、でも胸があたたかい音を立てた。


「でもね、見つけられなかった。その日は雲が多かったの」

「それで泣いたの?」

「うん。悲しくて淋しくて、怖くて、お母さんに抱き付いて泣いた」


思い出す。

あの日の涙の冷たさを。
震える声や身体を。
包んでくれたぬくもりを。

そして、その後よく目を凝らせば見えた、雲の裏に隠れた消えそうな輝きを。


「凛桜って月みたいよ」