視線をそらして上にあげた。
しばらくそのまま、真っ暗な空を見つめる。

二人の間に、静かな、でも気まずくはない沈黙が流れた。


「小さい頃にね」


その沈黙を破ったのは私。

声が震えそうになったのを、なるべく抑える。

あまり出来てなかったけど。


「私、あくまで覚えてる範囲だけど、泣いたことって全然ないの」


唐突でまったく脈絡のない話を、凛桜は黙って聞いてくれる。

「でもね」と続ける。


「一度だけ、大泣きしたことある」

「どうして?」


そこで初めて、凛桜が言葉を返した。

視線を向ければ、真っ直ぐに見つめてくる漆黒の瞳。

その強い輝きにドキマギしながら、苦しくなる胸に気付いた。

どうやら私は、無意識のうちに息を止めていたらしい。