「……それでろくな身寄りのなかったキミをボクが引き取り、今に至る」
宮辺さんは、ふう、息を吐く。
「いつか、もっと先に話そうと思っていた」
わたしは罪を感じる。
宮辺さんに十分幸せにしてもらったわたしが、この生活に不満を持っていたから。
これは罪だと思う。
「……ごめんなさい」
謝罪の言葉がわたしの口から出た。
けれど、宮辺さんの表情は変わらず笑顔のまま。
「申し訳ないって思うなら……」
宮辺さんは何を要求するのだろう。
「その敬語、やめてくれないかな」
「……はい?」
「だから、そのしゃべり方をやめてほしいな。あと『宮辺さん』ってのも」
宮辺さんはいつもと……いつもの食卓と変わらない語り。
まるで夢を語るかのような語気で。
「もし今までのことを後悔するのなら、これからを変えていけばいい」
この人は、なんて物事を軽く言う人なんだろう。
「ボクときちんとした家族になるんだよ」
「宮辺さんと、家族ですか?」
宮辺さんのことを家族なんて思ったことがなかった。
仇敵だったから。
恩人だったから。
ただの同居人だったから。
「だから、名前で呼んで」
名前。
……失礼だけど、
「すみません」
憶えていない。